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  • テレビ局がネット時代にできることは? フジのニュースメディア『ホウドウキョク』はなぜ生まれたのか
本サイトは一部にプロモーションを含みますが、記載されている情報は一切その影響は受けておらず、公平・中立な立場で制作しております。

Webメディアは自社のサイトを持ち、そこに情報を集約させるのが従来の形でした。しかし、最近はそれが変わりつつあります。

SNSがネット上で果たす役割が大きくなり、新しく登場したのが「分散型メディア」。自社サイトではなく、Twitter、Facebook、YouTube、LINEなどの各プラットフォームに直接コンテンツを配信し、SNS上で完結させるメディアです。

海外では『Now This』などが有名で、国内では『BuzzFeed』『Tasty』などもよく知られています。

しかし日本発で、しかもニュース・報道系の分散型メディアというのはまだまだ発展途上。その中で奮闘しているのが、2017年5月にアプリもリリースした『ホウドウキョク』です。

▲『ホウドウキョク』はFacebook、Twitter、LINE、YouTube、SmartNews、グノシー、yahoo!、ニュースパス、および自社サイト、アプリで見られる。

最新のメディアならば新進のスタートアップ企業が運営しているのかと思いきや、実はその本体は大企業の「フジテレビ」。

テレビ局によるニュースメディアの強みとはいったい何なのか。『ホウドウキョク』のプロジェクトリーダー・清水俊宏 氏、開発主任・寺記夫 氏にインタビューを行いました。

▲プロジェクトリーダー・清水俊宏 氏

ホウドウキョク

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関係者は2000人。報道記者の一次情報が集まる

― 『ホウドウキョク』のメインユーザー層を教えてください。

清水:Webもアプリも30~40代の男性、ビジネスパーソンがメインです。

ですが、堅苦しいニュースサイトにはしたくないと思っています。ですので、ご覧の通りポップな色使いにしています。

寺:軍事ものに強かったり、国会中継をしていたりするので、そういうニュースを知りたい層が多いですね。

― なぜ政治や軍事ニュースに強いと言えるのでしょうか?

清水:『ホウドウキョク』は記者やディレクターといった、報道に携わる人たちの一次情報が集まるのが強みです。

例えば「金正恩が金正男に出した手紙」みたいな、どこから持ってきたんだという情報をスペシャリストが提供してきたり、地上波では出ていなかった情報を出せたり。

編集部自体は数人しかいませんが、フジテレビだけでも100人ほどの記者、FNN(フジテレビ系列のニュースネットワーク)全体では2000人ぐらいの報道関係者が携わっています。実はものすごいリソースを抱えているんです。

僕も以前は政治部の記者をずっとやっていたのですが、記者は毎日取材をしています。でも事件・事故があると、地上波で自分のニュースが入らないことも多いです。

でも、それはすごく勿体ない。出せる情報はたくさん持っているし、もっと知りたいと思っている視聴者もいます。

そうした時、テレビの枠しかなかったのが、『ホウドウキョク』を使えば情報をもっと伝えることができる。記者たちの「もっと伝えたい」という気持ちを叶える場所として作っています。

― では、具体的にどういったジャンルのニュースが人気がありますか?

清水:「半径5mでものを考えて取材したり、タイトルを付けたりしろ」といつも言っているんですが、”自分の半径5mにやってくる問題”を扱った記事は読まれやすいです。

例えばAI(人工知能)に関するニュースであれば、「世界がどう変わるのか」という視点ももちろん入るのですが、それよりも「自分の暮らしはどう変わる?」「自分の子どもの教育はどう変わる?」と、ユーザーの生活に関わる記事を書きなさいと指示しています。

考え方はテレビと同じ。ユーザーに合わせ、様々なニュース記事を作成

― 『ホウドウキョク』のニュースの作り方は、テレビと違いますか?

寺:短尺動画は電車の中などで見ることを想定して、音がない状態でニュースを届けなければいけません。

素材は地上波のものを使っていますが、スマホユーザーが見やすいようにコンテンツを再生成しています。これは、地上波のテレビマンにはない発想です。

また、『ホウドウキョク』では毎日ライブ番組をやっているのですが、通勤中に1時間かけてそれを見るかと言ったら、そんなことはないですよね。そこで番組の内容を3分で読める記事にまとめています。

番組にしたものが通勤中に読めるのは面白いコンセプトで、テレビ局全体に必要なノウハウです。『ホウドウキョク』はこれをいち早く開発していると思います。


清水:Twitterではコメントを変えたり、Yahoo!ではタイトルを付け替えたりしています。

テレビの視聴率は結果が翌日に出ますが、ネットはリアルタイムです。PVが伸びない時はタイトルを打ち直してみたり、ハッシュタグを付けなおしてみたり。やり直しがすぐできるのはネットならではで面白いですね。

▲大きくテロップが入り、目だけで概要が把握できるニュースダイジェスト動画。

清水:ですが、大きな意味ではテレビと考え方は変わりません。

テレビはもともと、朝・昼・夜でニュースの作り方を視聴者層に合わせて変えています。昼なら柔らかくかみ砕いた内容にしたり、夜なら付加価値をつけて骨太な内容にしたり。

これがスマホになれば、当然作り方は変わります。

例えば党首討論であれば、昼間に生中継を45分見るのはビジネスパーソンにはほぼ不可能です。しかしこれをテキスト中継にすれば、スマホやPCで見られます。

でも、リアルタイムで見られなかった人が、後からテキスト中継を全部読むのはつらい。そういう人向けにはまとめ記事を書く。

さらに、党首討論は内容が難しいと感じている人には、チャット風に見せて1分でダイジェストを理解できるようにする。

ライブ、テキスト、インフォグラフィック。誰がスマホを触っているのかを考えながら、いろいろなコンテンツを作っています。

▲党首討論がチャット風に。1つのニュースでも、様々な形式で提示してくれる。

いずれは人と人とがマッチングするニュースサイトへ

― アプリがリリースされましたが、こだわった部分はどこですか?

清水:Webよりもサクサク読みやすいように、立ち上げたらすぐ読めるようにしてくれと開発者に伝えました。

雑誌は興味のないページもパラパラとめくって読んでいたら、面白いなーと感じることがありますよね。それと同じように、アプリでも記事を読み終わったら、次の記事が勝手に始まるようにしています。

▲縦にスクロールするだけで、どんどん次の記事が読める。

清水:ライブ動画を右下に小さく表示しながら、他の記事を読めるのも特徴です。

例えば容疑者が釈放されるというときに、中継していてもなかなか出てこないことも多いですよね。でもそういう時には、他の記事を読みながら待つことができます。


寺:これはFacebookなどと同じUIにしています。オリジナルを求めるより、いつもよく使っているアプリにどれだけ操作性が似ているかが大事だと思っています。

寺:また音声モードにすれば、ニュースを聴きながら記事を読むことができます。

スマホはPCと比べると、まだまだマルチタスクが苦手なデバイスです。しかし、ユーザーのニーズはそこにあると思います。

ニュースを聴きながら、他のアプリを使ってもらっても構いません。ユーザー目線で、アプリの機能を入れています。

― 逆に、あえて外した機能はありますか?

寺:最初の案では、ニュースのカテゴリ毎にタブで左右に切り替えられるようにしようとしていました。

それも悪くないのですが、それでは今のスマホサイトと操作性がかなり変わってしまいます。ユーザーはアプリで見る日もあれば、Webで見る日もあると思うので、「いつものホウドウキョクと全然違う」とストレスにならないようにしました。

ー 今後、搭載したい機能はありますか?

清水:いずれは、ユーザーの好みにあった記事が並んだり、興味のない記事を非表示にできるようにしたり、と考えています。

自分がどういったニュースに興味があるのかを、可視化できたら素敵ですよね。


寺:いずれは人と人とが、好みに合わせてマッチングできるニュースサイトになったらいいなと思っています。

ビジネスパーソンが出会って商談が生まれたり、同じ興味を持っている人同士でコメントしあってニュースをより深く読み込んだり。新しいニュースの発信の仕方になるのではないかなと。

▲技術的な部分を支える寺氏。

今一度テレビを信頼されるメディアに。確かなニュースを若い人たちに届けたい

― アプリを持つことは、「分散型でやっていく」という流れに反することとも捉えられますが、リリースすることに社内で反発はありませんでしたか?

清水:たしかに疑問の声はありました。各プラットフォームに合わせてコンテンツを出した方が、今の時代に合うのではないかと。アプリを開発するには費用もかかるし、アップデートも必要ですから。

しかしそれでは、プラットフォームのアルゴリズムの変化など、どうしても分散先に依存してしまいます。それに右往左往していては、新しいことが生まれていかないなと思います。


寺:社内のムードは、むしろ「アプリを出せ」という声の方が強かったです。

逆に僕たちの方が、分散戦略を取っているんだからアプリの優先順位は高くないと主張していました(笑)

でも先々のことを考えると、アプリを作ることでコミュニティ機能とかが生まれてビジネスに繋がるのではと思い、必要だと感じるようになりました。


清水:僕らフジテレビは新しいものを開発するのが大好きなのですが、やはりアプリを持っていないとできないね、と。

― 新しいものといえば「VRニュース」が斬新ですが、VRならではの苦労はありますか?

清水:全方向が映るのでスタッフが全員隠れなければいけなかったり、一般の方に「こちら撮影するので失礼します」と声をかけきれなかったり。でも、逆にそうやって全て映せることが面白いですね。

例えば震災の現場で「壊れています」とテレビで言っても、映っていない方は壊れていないのではと疑心暗鬼になる部分がどうしてもあって。もちろん僕たちはそんな嘘はつかないんですが。

でも、VRなら「後ろも壊れているな」と一瞬確認できるだけで、目の前のニュースに余計なことを考えず集中できるんです。

― VR以外にチャレンジしたいコンテンツは何ですか?

清水:今コンテンツを増やしているのは「ドローン」です。

VRより古い技術ですが、ドローンでの映像の撮り方はまだまだ進化できるなと思っています。

▲VRと組み合わせたドローン映像

― 『ホウドウキョク』の目指す先はどこにありますか?

清水:サウスバイサウスウエスト(SXSW。アメリカで開催される新興企業のイベント)へ取材に行ってみると、スマホの時代はすでに終わっているんです。次はウェアラブルだったり、音声だったり……。

そうしたときにスマホぐらい攻略できていないと、次の時代はないなと。でも、ウェアラブルなど次の技術にも対応していけば、テレビメディアはまだまだ最強でいられると思っています。

スマホが終わった次の時代も見据え、テレビ局のサービスとして、どこもやっていないことをやりたいです。


― 新しい分野にはリスクもあると思いますが、なぜ誰もやっていないところにチャレンジしていくのですか?

清水:フジテレビには「常に1番でやりたい」という社風があります。

民放の中でも初めてVR事業部を立ち上げたのですが、リスクを恐れず、面白いことを考えようというノリは楽しいですね。

ニュースの中で演出や音楽を入れたり、キャスターが意見を言ったり取材したり、レポーターが歩きながら喋ったり。これらは今では当たり前ですが、実はフジテレビが初なんです。

もちろん失敗もたくさんあるのですが、そうやって新しいことに挑戦してきたからこそ、かつての黄金時代を築き上げることができました。

同じように、スマホでも成功して、次のデバイスでも成功していかなければいけないと思っています。

― 最近は「テレビの時代は終わった」「テレビはリアルじゃない」などと言われることもしばしばありますが、そのことについてはどう思われますか?

清水:たしかに最近は、テレビの裏側は嘘なんだろうと疑う空気ができ上がっていますね。

だから先ほど挙げたようなVRニュースで全部を見せたり、24時間のライブの中で取材の裏側を喋ったり、制作の過程も『ホウドウキョク』の中では全部見せるというのをコンセプトにしています。地上波では難しいですが、Webでこそできることです。

また、記者クラブに入って、防衛省や外務省や首相官邸にいつも人を張り付けて、ヘリを買って災害現場へ飛んでいくなんてことを、普通のメディアが今から始めることはできません。

しかし、僕たちはこういったリソースを持ち、責任をもって取材を行っています。何十年も報道を続けてきた僕らテレビ局だからこそ、ただニュースを並べているだけではない、信頼できるニュースメディアができると思っています。

― 『ホウドウキョク』は、どういった人に使っていってほしいですか?

清水:もっと若い人たちに使ってほしいです。

少子化の時代ですから、ビジネスをしようと思ったら高齢者を相手にした方がもちろんいいです。でも日本の成長を考えれば、やっぱり若い人にもっと活躍してほしい。そのための情報を僕らは提供できるはずなんです。

ネットには情報が溢れていますが、フェイクニュースも多い。本当かどうかを調べていると1日終わってしまいます。そこで、『ホウドウキョク』を見れば正しいものがある、検証したかったらここを見ればいいというプラットフォームになれれば素敵ですよね。

「ホウドウキョクを見ていれば安心ですから。」そういったものを作ってあげられれば、国民の生命・財産のために何かをするというテレビ局の意義に応えられるなと。

だからこそ、若い人たちに伝わらなければ僕らの怠慢だと思っています。彼らに伝わる形を、これからも考えていきたいです。

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