近年のさまざまな状況が「働き方改革」を推進し、リモートワークを導入する企業が増えてきました。
その一方で、書類の押印や発送のために出勤を余儀なくされる事務職の方がいるのも事実。こうした状況が続く中で注目がどんどん高まっているのが「電子印鑑」です。
導入コストが気になるビジネスパーソンに向けて、この記事ではフリーソフトを中心にご紹介していきたいと思います。
「電子印鑑って何?」「作るのって難しいの?」といった疑問にもしっかりお答えしていくので、興味をお持ちの方はぜひ最後までお読みくださると嬉しいです。

電子印鑑とは
世界におけるビジネスシーンは署名がスタンダードですが、それとは異なるハンコ文化が長く根付いてきた日本。実印、銀行印、認印などを書類の用途に応じて使い分けながら、業務を行うことが業務において当たり前に行われています。
実際に近年は様々なモノが電子化されたり、業務効率向上の一環としてペーパーレス化が推し進められたりしていますが、やはり押印するというアナログな業務は欠かせないものとされていました。
そんななか登場したのが、押すという作業をパソコン上でできるようになる電子印鑑。PDFやExcel、Wordなどのデータに直接押印できるとあって、効率化をはじめ様々なメリットを秘めています。
電子印鑑を用いるメリット
書類を印刷して、確認して、印鑑を押して、手渡したり、郵送したりという行程を手間に感じていた方にとって、それが格段に効率化を図れることが大きなメリット。実印や朱肉を用意したり、印刷するのにかかるコストも同時に削減できたりするのも経費削減に繋がります。
これまでと異なり、パソコン上で書類を確認し、作っておいた電子印鑑をそこに貼り、メールなどで送付すればOKなので、出勤せずとも同じ仕事をPC上で行えるようになります。
リモートワークなのに出勤しなきゃいけない、なんて不幸を無くすことも不可能ではありません。
電子印鑑を用いるデメリット
リモートワーク重視の働き方が求められる昨今において注目が集まる電子印鑑ですが、まだまだ公的な書類への押印には残念ながら効力を持っていない状況です。その理由は押したのが本当に本人か、いつ押されたかを証明しにくいなどの理由が挙げられています。
もちろんこうした問題を解決したサービスもありますし、時代背景的な理由から電子印鑑の効力も今後さらに高まっていくはず。
そのため近い将来にはこうしたデメリットは少なくなり、電子印鑑自体が有効に使用できるようになるのではないでしょうか。
電子印鑑を無料で作成できるフリーソフト・アプリ
ネット上で入所できるフリーソフトやオンラインツールなどを用いれば、電子印鑑は誰にでも簡単に作ることが可能です。
実際に様々なサービスが存在しているので、ここからはそれぞれについて紹介していきたいと思います。
クリップスタンプ
WordやExcel、一太郎で作られた文書に、日付印や三文判などを押印できるフリーソフトです。作成できるのは「日付印」「代理印」「三文判」「丸印」「角印」の5種類で、複数の印鑑を使い分けられることがメリット。
日付印と代理印は、部署名・日付・名前を上中下段にそれぞれ入力することが可能で、日付は任意に指定するほか、PCの時計から自動取得することもできます。
表示形式も和暦・西暦から選択制できるのは嬉しいですね。WordやExcelを日頃から重宝しているのならばこのソフトを大いに活用できるのではないでしょうか。
ただもちろんデメリットも。文書に押印した印影のサイズ変更や削除することが可能となってしまうので使用する場所は選ばなければいけません。個人的には重要度の低い認印程度に使用は止めることをお勧めしたいと思います。
『クリップスタンプ』ダウンロードページ
https://www.vector.co.jp/soft/winnt/business/se255894.html
クリックスタンパー
あらかじめ用意されているサンプルファイルに手を入れ、様々なスタンプ風にベクター画像をつくることができるフリーソフト。
デザインに関してはソフトとサンプルファイル任せとなりますが、「三文判」「マル秘印」「回覧印」「名前と日付入りのデータネーム印」などは簡単に作成することが可能です。
ちなみに縦横のサイズや解像度などの調整も自在にできます。作成したスタンプをメタファイルとしてエクスポートすることも可能なので拡大・縮小しても品質が劣化せず、使い勝手の良い電子印鑑として活躍してくれるでしょう。
ただフリーのサービスということもあり、デザインの自由度は正直高くありません。デザイン性の高い電子印鑑を求めたい方にはちょっと不満が残りそうですね。
『クリックスタンパー』公式サイト
http://hp.vector.co.jp/authors/VA041064/soft/click_stamper.html
印鑑透過
透過印鑑画像を自動で作成してくれるフリーのWebサービス。そのため本物の印鑑から電子印鑑を作ることが可能です。
作り方も難しいことは一切なく、至ってシンプルなところも嬉しいポイント。実際に白紙に押印した印鑑画像をそのままサイトにアップロードすると、印影が文字の上に被らない透過画像の電子印鑑の出来上がりです。印鑑作成に特化した画像変換エンジンを使用しているため、面倒な作業が一切ないことも魅力と言えるでしょう。
しかも実印から作るため、かすれ具合もそのままなので電子印鑑には見えない仕上がりになるのも良いと思います。ちなみにこのサービスと画像加工アプリを組み合わせればスマホで電子印鑑を作成することも可能。PCがないからとお困りの方でも安心です。
『印鑑透過』公式サイト
https://tojikomorin.sakura.ne.jp/inkan/
PIXLR X
本来は電子印鑑作成用のツールではなく、Photoshopの代用として使えるほどの機能が備わった画像編集ツール。ですが、その機能を用いれば簡単に電子印鑑を作ることができます。スマホで使えるモバイルアプリもあるので、PCがなくても安心してください。
スキャナで印影を取り込むほか、スマホで撮影した印影から電子印鑑を作ることが可能となっています。取り込んだ印影画像の背景を透明にし、印影に合わせたサイズに切り抜き、画像の色調整を行ってPNG画像として保存すれば、実印をベースにした電子印鑑の出来上がり。
ちなみに色の調節機能がないので、朱色がしっかりと出ている印影を用いないと、綺麗な電子印鑑を作成することは難しそうです。
『PIXLR X』公式サイト
https://pixlr.com/jp/x/
Excel電子印鑑
アドインとして無料で使えるExcelのフリーソフトなので、Excelユーザーには特にお勧め。ダウンロードすれば、右クリックメニューに電子印鑑のメニューが現れ、手軽に押印することが可能です。
テンプレートとして用意されている電子印鑑だけでなく、独自の印面を作って使用できることもポイント。認印や角印、日付入りの電子印鑑を作ることが可能なので、Excelで様々な書類を作成するのであればこのソフトを存分に活用できるでしょう。
デメリットとしては、Excelユーザーなら分かると思いますが、アドインは使用環境によってはExcelの動作自体に影響を及ぼしてしまうこと。もし他の業務に悪影響を及ぼすのであれば、このソフトを利用し続けることは決してお勧めしません。
電子三文判
とろろこんぶシステム工房が提供する有料ソフト「承認はんこ」の無料版という位置付けになるサービス。認印だけでなく、ビジネス印20種類も利用することが可能です。
有料版とは異なり、登録されている名字が200種類、任意のテキストから作成することが不可能など、かなり限定された内容となっています。そのため使い勝手は決して良くないかもしれません。このソフトを試して気に入った方はぜひ有料版を活用してほしいと思います。
ちなみに有料版である「承認はんこ」には2,600名字の印影が用意されているだけでなく、印影感知を行う管理ツールもあり、高いセキュリティを確保することが可能です。
職印くん32
その名の通り、会社で使用するような職印を作成してくれるフリーソフト。基本設定で情報を入力し、形状で「丸型・楕円形」「認印」「銀行印」「訂正印」の5種類から選択を行い、フォントで書体と色を選択すれば完成です。
職印というワードは入っているものの、社名と役職名、フルネームと資格名といった情報を組み込むことは出来ないので、公的な立場で使用する印鑑として用いることには不可能です。実際に認印以上の効力を持たせることは難しいと言えるでしょう。
さらに認証をはじめとする高度な機能を有していないので、三文判的な位置付けで用いることになるのではないでしょうか。
『職印くん32』公式サイト
https://shokuinkun.blogspot.com/
電子印鑑の自作方法
実は自分で電子印鑑を作ることも可能です。その代表的な2例も以下に紹介しておきますので、得意な方は自作してみてはいかがでしょうか。
Excelを使用した作り方
[挿入]タブを開き、[図](もしくは[図形描写])で図形を作成、[テキストの編集]で印鑑にしたい文字を入力します。縦書きにしたい場合は、[ホーム]タブにある[配置]で縦書きに変更しましょう。
Photoshopを使った作り方
白紙に実際の印鑑を押印→スキャンして画像データ化→透過GIF、透過PNGで保存すれば完成。
とは言っても、自分で作るのは得意でなければ手間も時間も掛かってしまうもの。不慣れな場合はやはりフリーソフトを活用することが正解だと思います。
電子印鑑を有料で作成できるソフト
無料ソフトを用いれば手軽に電子印鑑は作れますが、一方でセキュリティ対策が万全とは言い切れません。
もっと電子印鑑をビジネスシーンで有効活用したいと考えている方は、以下にいくつか紹介する有料サービスを検討することをお勧めします。
とろろこんぶ電子印鑑(tksk eSeal)
印影をイメージで表現する承認はんこと、印影を文字フォントで表現する日付印ぺったんの2つが作れる有料サービス。管理ツールと押印ツールに分かれ、エンドユーザーは印影を作成・登録することができません。
押印パスワードが設定できたり、押印時に押印ログが出力されたり、セキュリティ面も万全です。
『とろろこんぶ電子印鑑(tksk eSeal)』公式サイト
http://www.tororokonbu.jp/
京印章シーオージェイピー
本物の社印を作る際に使用するのと同じフォントを用いた印章作成ソフトを使用し、手作業でオリジナル印影を作り上げるサービス。ライセンス制限がなく複数のPCで使うことができ、一般的な画像フォーマットで提供されるので使い方も簡単です。
作った電子印鑑を印材に彫刻して印鑑化することも可能なのは「はんこ屋」ならではの強みと言えます。
『京印章シーオージェイピー』公式サイト
https://www.kyoinsho.co.jp/d_hanko/
パパッと電子印鑑3PRO
印章用フォントを利用した本格的な電子印鑑画像ファイルを作成するユーティリティソフト。「認印・三文判」「データネーム印」「ビジネス印」「ユーザー印」「住所印」「会社印」「イラスト印」「スキャナ印」の8種類を作成することが可能です。
さらに実際の印鑑をスキャンして編集できる「スキャナ印機能」も提供されています。デスクトップ上の任意の場所に「印鑑パネル」を設置でき、ソフトを起動せずとも簡単に押印できるなどユーザー目線に立った機能が充実していることも大きな魅力です。
以前は無料版も提供していましたが、2020年5月現在は有料版のみ。その分多彩なフォントから選ぶことができ、機能は充実しています。日頃から押印業務の多い方は導入を検討してみると良いでしょう。
『パパッと電子印鑑』公式サイト
https://ging.co.jp/product/useful/estamp.html
My電子印鑑
電子印鑑の弱点といえる拡大した際のギザギザ。アウトラインで提供することでそれを解消する電子印鑑を手に入れられるのがこのサービスです。オーダーメイドで作成されるので、他にないオリジナルな電子印鑑と出会えます。
各印や社員に押印者情報が埋め込まれるため、不正コピーの防止・抑制への対策もバッチリです。
『My電子印鑑』公式サイト
https://www.sunsale.co.jp/myden/index.html
パソコン決済Cloud
稟議申請書、届出書、見積・請求書、注文・注文請書などにおける一連の流れを、すべてクラウド上で完結できるサービス。氏名印・日付印・社印などの電子印鑑が1印鑑あたり月額100円で利用でき、インターネット環境さえあればどこででも業務を進めることができます。
シヤチハタ印※などの印鑑でお馴染みのシヤチハタ株式会社の提供するサービスなので、セキュリティ面にも不安なしです。
※「シヤチハタ印」は、シヤチハタ株式会社の登録商標です。
『パソコン決済Cloud』公式サイト
https://dstmp.shachihata.co.jp/
電子印鑑を便利に使おう
現在電子印鑑は大きく分けて2種類存在しています。一つは「印刷データのみの電子印鑑」、もう一つが「印刷データに持ち主と作成者、タイムスタンプ情報が組み込まれた電子印鑑」です。
お勧めしたいのは、必要な書類に応じて使い分けられるように両方を作ってしまうこと。認印としては前者を、電子印鑑証明を発行できる後者は信頼性も高いので実印として。この2種類をどちらも用意することで、重要な書類にも電子印鑑のみで対応する日が実現できるかもしれません。
電子印鑑の導入方法
作ることに関しては、前述した電子印鑑のフリーソフトを利用すれば簡単ですし、その電子印鑑データを PC上でそのまま貼り付ければ良いので難しさを感じることはないと思います。
ただそれを実際の業務にどう組み込んでいくかに関しては別問題。それに合わせたフローを導入していくことが何より重要となりえるでしょう。もちろんすべてをすぐにという訳にはいかないと思いますが、この状況下ではどんな企業も様々な模索をしているはず。
取引先との連携を図りつつ事業自体を停滞させないためにも、ひとまずは緊急事態宣言が発令されている期間だけ臨時的に、その後はフローを見直しながら正式に新しいカタチとして作り上げてみてはいかがでしょうか。
電子印鑑の効力
2005年に施行された「e-文書法」という法律で、法人税法や会社法、商法、証券取引法などで保管が義務付けられている文書や、帳簿、請求書、領収書といった様々な書類などの電子化が認められています。
ただその知名度が決して高くないことがあってか、電子印鑑では取引先の企業が認めてくれないなど、正直なところまだ普通の印鑑と同じ効力を発揮しているとは言い切れないのが現状です。
この現状を踏まえると「e-文書法」への理解は今後深まっていくと思われます。電子印鑑と共に電子署名も添付するなどすれば、効力としてかなり高くなるので相手にも信頼されやすくなるでしょう。
電子化が可能な書類の一覧
・会計帳簿
・証憑書類(相手方から受け取った見積書、注文書、契約の申込書、送り状、納品書、検収書、請求書、契約書・領収書の一部等。自己の作成したこれらの書類の写し)
・振替伝票
・営業報告書
・財産目録
・事業(業務・事務)報告書
・付属明細書
・組合員(会員、加入員)名簿
・議決権行使書
・規約等
・資産負債状況書類
・社債権者集会議事録・謄本
・社債原簿・謄本
・総会議事録(創立総会含む)
・取締役会議事録
・定款
など
電子印鑑の注意点
手軽に作れて、使える電子印鑑ですが、その手軽さが大きなリスクになってしまうことも多々あります。
基本的には陰影を画像として貼り付けるモノなので、普通の印鑑と同様に偽造されたり、流用されたりする可能性があることは否めません。
また、誰がいつ押印したのかに関してもフリーソフトで作る電子印鑑では証明することが正直できないことにも理解が必要です。
だからこそ印影のみの電子印鑑は認印としてのみ、対外的に用いるのは印刷データに持ち主と作成者、タイムスタンプ情報が組み込まれた電子印鑑と、二つを使い分けることが何よりも重要となるでしょう。
同時に電子印鑑自体の管理手法にも会社や部署としてしっかりした仕組みを構築することが大切となります。
電子印鑑で快適なリモートワークを
ご紹介してきたように無料・有料を問わずに様々な電子印鑑作成サービスがすでに存在しています。電子印鑑の画像を用意しておけば、PDFやExcel、Wordにいつでも挿入できるので、これを機会にぜひ一つ作ってみてはいかがでしょうか。
各企業のリモートワーク化は加速しています。地域によってはその長期化も予想されており、以前と同じ働き方を取り戻すのはかなり先になってしまうかもしれません。こうした中、印鑑のデジタル化はTwitterでトレンドに入るなど、大きな注目を集めているサービスです。
ハンコ文化の日本として長く歩んできただけに、まだまだ乗り越えていかなければならない問題は多々ありますが、このタイミングで電子印鑑を導入することで、これからの働き方が変えられたり、業務自体の効率化に繋がったりする可能性は大きいでしょう。
この記事で学んだことを活かして、電子印鑑を作り、安心してリモートワークができる環境を整えてみてください。
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